10 / 20 / 30 / 40 / 50 / 60 / 70 / 80 / 90
横書き / 縦書き

音声:VOICEVOX:ずんだもん

秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ

1首 天智天皇秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ
あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
秋、田を守るための小屋にいると、屋根が粗いから夜露で袖が濡れていくよ

春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山

2首 持統天皇春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山
はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま
春が過ぎて夏が来たようです、天の香具山には衣替えした白い衣が干してあるよ

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む

3首 柿本人麻呂あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む
あしびきの やまどりのをの しだりをの ながながしよをひとりかもねむ
山鳥の尾のように(秋の)長い夜を、あの人に会えずに寂しく過ごすのか…

田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ

4首 山辺赤人(山部赤人)田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
たごのうらにうちいでてみればしろたへの ふじのたかねにゆきはふりつつ
田子の浦に出て見上げてみると、富士山には雪が積もっていたよ

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき

5首 猿丸大夫奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき
おくやまにもみぢふみわけなくしかの こゑきくときぞあきはかなしき
紅葉を踏み分けて歩く鹿の鳴き声が聞こえると、秋の寂しさを感じるよ

かささぎの渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける

6首 中納言家持かささぎの渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける
かささぎのわたせるはしにおくしもの しろきをみればよぞふけにける
鵲(かささぎ)が架けた橋に付いた霜のように見える星を見ると、もう夜が更けてしまったのだなと感じるよ

天の原ふりさけみれば春日なる 三笠の山に出でし月かも

7首 阿倍仲麻呂(安倍仲麿)天の原ふりさけみれば春日なる 三笠の山に出でし月かも
あまのはらふりさけみればかすがなる みかさのやまにいでしつきかも
唐の夜空に見える月は、春日の三笠の山に見える月と同じなんだな

わが庵は都の辰巳しかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり

8首 喜撰(喜撰法師)わが庵は都の辰巳しかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり
わがいほはみやこのたつみしかぞすむ よをうぢやまとひとはいふなり
私は都の東南で穏やかに住んいるけど、世の人は都が嫌になって宇治の山に住んでいると噂しているようだ

花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに

9首 小野小町花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに
はなのいろはうつりにけりないたづらに わがみよにふるながめせしまに
桜の花は色あせてしまった。春の長雨のあいだ、物思いにふけっているうちに

これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬも逢坂の関

10首 蝉丸これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬも逢坂の関
これやこのゆくもかへるもわかれては しるもしらぬもあふさかのせき
ここが、都から東へ出る人も帰ってくる人も、知る人も知らない人も、出会って分かれる、逢坂の関所なのだな

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人にはつげよ海人の釣船

11首 参議篁わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人にはつげよ海人の釣船
わたのはらやそしまかけてこぎいでぬと ひとにはつげよあまのつりぶね
広い海原に(島流しで)漕ぎ出して行ったと、漁師の皆様、都の皆に伝えて下さい

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ

12首 遍昭(僧正遍昭)天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ
あまつかぜくものかよひぢふきとぢよ をとめのすがたしばしとどめむ
空を吹く風よ、雲の中の通り道を塞いでください。天女たちの美しい姿をもうしばらく見ていたいから

筑波嶺の峰より落つるみなの川 恋ぞつもりて淵となりぬる

13首 陽成院筑波嶺の峰より落つるみなの川 恋ぞつもりて淵となりぬる
つくばねのみねよりおつるみなのがは こひぞつもりてふちとなりぬる
筑波山から流れる男女川(みなのがわ)のように、私の恋心も積もって淵のように深くなっていくよ

陸奥のしのぶもぢずりたれゆえに 乱れそめにしわれならなくに

14首 河原左大臣陸奥のしのぶもぢずりたれゆえに 乱れそめにしわれならなくに
みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑに みだれそめにしわれならなくに
みちのくの染め物、忍捩摺(しのぶもぢずり)のみだれ模様ように乱れたこころはなく、あなただけを想っていますよ

君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ

15首 光孝天皇君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ
きみがためはるののにいでてわかなつむ わがころもでにゆきはふりつつ
あなたのために早春の野に出て若菜を摘んでいる私の袖には雪がふりかかっています

立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む

16首 中納言行平立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む
たちわかれいなばのやまのみねにおふる まつとしきかばいまかへりこむ
別れて行くけれど、因幡の松のように皆が私の帰りを「待つ」っていると聞いたならば、私はすぐに帰ってくるよ

ちはやぶる神代も聞かず竜田川 から紅に水くくるとは

17首 在原業平朝臣ちはやぶる神代も聞かず竜田川 から紅に水くくるとは
ちはやぶるかみよもきかずたつたがは からくれなゐにみづくくるとは
不思議なことが多い神代の頃にも聞いたこと無い。竜田川に浮いた一面の紅葉が水を染めたようになっている様子は

住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ

18首 藤原敏行朝臣住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ
すみのえのきしによるなみよるさへや ゆめのかよひぢひとめよくらむ
住之江に繰り返し打ち寄せる波ではないけれど。思いを寄せるあなたは、昼だけではなく夜の夢の中でも現れてくれない

難波潟短き葦のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや

19首 伊勢難波潟短き葦のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや
なにはがたみじかきあしのふしのまも あはでこのよをすぐしてよとや
難波潟に生える芦の節と節の短さのように、ほんのわずかな時間もあなたに会えずにこの世を過ごせというのでしょうか

わびぬれば今はた同じ難波なる 身をつくしても逢はむとぞ思ふ

20首 元良親王わびぬれば今はた同じ難波なる 身をつくしても逢はむとぞ思ふ
わびぬればいまはたおなじなにはなる みをつくしてもあはむとぞおもふ
あなたに逢えずに苦しい、もう何もかもどうなってもよい、難波にある「澪標(身を尽くし)」ではないけれど、身を尽くしてもあなたに会いたい

今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな

21首 素性法師今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
いまこむといひしばかりにながつきの ありあけのつきをまちいでつるかな

吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ

22首 文屋康秀吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ
ふくからにあきのくさきのしをるれば むべやまかぜをあらしといふらむ

月見れば千々にものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど

23首 大江千里月見れば千々にものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
つきみればちぢにものこそかなしけれ わがみひとつのあきにはあらねど

このたびは幣もとりあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに

24首 菅家このたびは幣もとりあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに
このたびはぬさもとりあへずたむけやま もみぢのにしきかみのまにまに

名にし負はば逢坂山のさねかずら 人に知られでくるよしもがな

25首 三条右大臣名にし負はば逢坂山のさねかずら 人に知られでくるよしもがな
なにしおはばあふさかやまのさねかづら ひとにしられでくるよしもがな

小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今ひとたびのみゆき待たなむ

26首 貞信公小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今ひとたびのみゆき待たなむ
をぐらやまみねのもみぢばこころあらば いまひとたびのみゆきまたなむ

みかの原わきて流るる泉川 いつ見きとてか恋しかるらむ

27首 中納言兼輔みかの原わきて流るる泉川 いつ見きとてか恋しかるらむ
みかのはらわきてながるるいづみがは いつみきとてかこひしかるらむ

山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば

28首 源宗于朝臣山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば
やまざとはふゆぞさびしさまさりける ひとめもくさもかれぬとおもへば

心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花

29首 凡河内躬恒心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花
こころあてにをらばやをらむはつしもの おきまどはせるしらぎくのはな

有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし

30首 壬生忠岑有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし
ありあけのつれなくみえしわかれより あかつきばかりうきものはなし

朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪

31首 坂上是則朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪
あさぼらけありあけのつきとみるまでに よしののさとに ふれるしらゆき

山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり

32首 春道列樹山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり
やまがはにかぜのかけたるしがらみは ながれもあへぬもみぢなりけり

ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ

33首 紀友則ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ
ひさかたのひかりのどけきはるのひに しづこころなくはなのちるらむ

誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに

34首 藤原興風誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに
たれをかもしるひとにせむたかさごの まつもむかしのともならなくに

人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける

35首 紀貫之人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける
ひとはいさこころもしらずふるさとは はなぞむかしのかににほひける

夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいずこに月宿るらむ

36首 清原深養父夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいずこに月宿るらむ
なつのよはまだよひながらあけぬるを くものいづこにつきやどるらむ

白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける

37首 文屋朝康白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
しらつゆにかぜのふきしくあきののは つらぬきとめぬたまぞちりける

忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな

38首 右近忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな
わすらるるみをばおもはずちかひてし ひとのいのちのをしくもあるかな

浅茅生の小野の篠原忍ぶれど あまりてなどか人の恋しき

39首 参議等浅茅生の小野の篠原忍ぶれど あまりてなどか人の恋しき
あさぢふのをののしのはらしのぶれど あまりてなどかひとのこひしき

忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで

40首 平兼盛忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで
しのぶれどいろにいでにけりわがこひは ものやおもふとひとのとふまで

恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか

41首 壬生忠見恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか
こひすてふわがなはまだきたちにけり ひとしれずこそおもひそめしか

契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは

42首 清原元輔契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは
ちぎりきなかたみにそでをしぼりつつ すゑのまつやまなみこさじとは

逢ひ見ての後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり

43首 権中納言敦忠逢ひ見ての後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり
あひみてののちのこころにくらぶれば むかしはものをおもはざりけり

逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし

44首 中納言朝忠逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし
あふことのたえてしなくはなかなかに ひとをもみをもうらみざらまし

あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな

45首 謙徳公あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな
あはれともいふべきひとはおもほえで みのいたづらになりぬべきかな

由良の戸を渡る舟人かぢをたえ ゆくへも知らぬ恋の道かな

46首 曾禰好忠(曽禰好忠)由良の戸を渡る舟人かぢをたえ ゆくへも知らぬ恋の道かな
ゆらのとをわたるふなびとかぢをたえ ゆくへもしらぬこひのみちかな

八重むぐら茂れる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり

47首 恵慶法師八重むぐら茂れる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり
やへむぐらしげれるやどのさびしきに ひとこそみえねあきはきにけり

風をいたみ岩うつ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな

48首 源重之風をいたみ岩うつ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな
かぜをいたみいはうつなみのおのれのみ くだけてものをおもふころかな

御垣守衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ

49首 大中臣能宣御垣守衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ
みかきもりゑじのたくひのよるはもえ ひるはきえつつものをこそおもへ

君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな

50首 藤原義孝君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな
きみがためをしからざりしいのちさへ ながくもがなとおもひけるかな

かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを

51首 藤原実方朝臣かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを
かくとだにえやはいぶきのさしもぐさ さしもしらじなもゆるおもひを

明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな

52首 藤原道信朝臣明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな
あけぬればくるるものとはしりながら なほうらめしきあさぼらけかな

嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る

53首 右大将道綱母嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る
なげきつつひとりぬるよのあくるまは いかにひさしきものとかはしる

忘れじの行く末まではかたければ 今日をかぎりの命ともがな

54首 儀同三司母忘れじの行く末まではかたければ 今日をかぎりの命ともがな
わすれじのゆくすゑまではかたければ けふをかぎりのいのちともがな

滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ

55首 大納言公任滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ
たきのおとはたえてひさしくなりぬれど なこそながれてなほきこえけれ

あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな

56首 和泉式部あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな
あらざらむこのよのほかのおもひでに いまひとたびのあふこともがな

めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな

57首 紫式部めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな
めぐりあひてみしやそれともわかぬまに くもがくれにしよはのつきかな

有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする

58首 大弐三位有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする
ありまやまゐなのささはらかぜふけば いでそよひとをわすれやはする

やすらはで寝なましものを小夜更けて かたぶくまでの月を見しかな

59首 赤染衛門やすらはで寝なましものを小夜更けて かたぶくまでの月を見しかな
やすらはでねなましものをさよふけて かたぶくまでのつきをみしかな

大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立

60首 小式部内侍大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立
おほえやまいくののみちのとほければ まだふみもみずあまのはしだて

いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな

61首 伊勢大輔いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな
いにしへのならのみやこのやへざくら けふここのへににほひぬるかな

夜をこめて鳥のそら音ははかるとも よに逢坂の関はゆるさじ

62首 清少納言夜をこめて鳥のそら音ははかるとも よに逢坂の関はゆるさじ
よをこめてとりのそらねははかるとも よにあふさかのせきはゆるさじ

今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな

63首 左京大夫道雅今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな
いまはただおもひたえなむとばかりを ひとづてならでいふよしもがな

朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木

64首 権中納言定頼朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木
あさぼらけうぢのかはぎりたえだえに あらはれわたるせぜのあじろぎ

恨みわび干さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ

65首 相模恨みわび干さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ
うらみわびほさぬそでだにあるものを こひにくちなむなこそをしけれ

もろともにあはれと思え山桜 花よりほかに知る人もなし

66首 前大僧正行尊もろともにあはれと思え山桜 花よりほかに知る人もなし
もろともにあはれとおもへやまざくら はなよりほかにしるひともなし

春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ

67首 周防内侍春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ
はるのよのゆめばかりなるたまくらに かひなくたたむなこそをしけれ

心にもあらで憂き夜にながらへば 恋しかるべき夜半の月かな

68首 三条院心にもあらで憂き夜にながらへば 恋しかるべき夜半の月かな
こころにもあらでうきよにながらへば こひしかるべきよはのつきかな

嵐ふく三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり

69首 能因法師嵐ふく三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり
あらしふくみむろのやまのもみぢばは たつたのかはのにしきなりけり

寂しさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋の夕暮れ

70首 良暹法師寂しさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋の夕暮れ
さびしさにやどをたちいでてながむれば いづこもおなじあきのゆふぐれ

夕されば門田の稲葉おとづれて 葦のまろやに秋風ぞ吹く

71首 大納言経信夕されば門田の稲葉おとづれて 葦のまろやに秋風ぞ吹く
ゆふさればかどたのいなばおとづれて あしのまろやにあきかぜぞふく

音に聞く高師の浜のあだ波は かけじや袖のぬれもこそすれ

72首 祐子内親王家紀伊音に聞く高師の浜のあだ波は かけじや袖のぬれもこそすれ
おとにきくたかしのはまのあだなみは かけじやそでのぬれもこそすれ

高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山の霞立たずもあらなむ

73首 権中納言匡房高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山の霞立たずもあらなむ
たかさごのをのへのさくらさきにけり とやまのかすみたたずもあらなむ

憂かりける人を初瀬の山おろしよ はげしかれとは祈らぬものを

74首 源俊頼朝臣憂かりける人を初瀬の山おろしよ はげしかれとは祈らぬものを
うかりけるひとをはつせのやまおろしよ はげしかれとはいのらぬものを

契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり

75首 藤原基俊契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり
ちぎりおきしさせもがつゆをいのちにて あはれことしのあきもいぬめり

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波

76首 法性寺入道前関白太政大臣わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波
わたのはらこぎいでてみればひさかたの くもゐにまがふおきつしらなみ

瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ

77首 崇徳院瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ
せをはやみいはにせかるるたきがはの われてもすゑにあはむとぞおもふ

淡路島通ふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守

78首 源兼昌淡路島通ふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守
あはぢしまかよふちどりのなくこゑに いくよねざめぬすまのせきもり

秋風にたなびく雲のたえ間より もれ出づる月の影のさやけさ

79首 左京大夫顕輔秋風にたなびく雲のたえ間より もれ出づる月の影のさやけさ
あきかぜにたなびくくものたえまより もれいづるつきのかげのさやけさ

ながからむ心も知らず黒髪の 乱れてけさはものをこそ思へ

80首 待賢門院堀河ながからむ心も知らず黒髪の 乱れてけさはものをこそ思へ
ながからむこころもしらずくろかみの みだれてけさはものをこそおもへ

ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる

81首 後徳大寺左大臣ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる
ほととぎすなきつるかたをながむれば ただありあけのつきぞのこれる

思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり

82首 道因法師思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり
おもひわびさてもいのちはあるものを うきにたへぬはなみだなりけり

世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる

83首 皇太后宮大夫俊成世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
よのなかよみちこそなけれおもひいる やまのおくにもしかぞなくなる

ながらへばまたこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき

84首 藤原清輔朝臣ながらへばまたこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき
ながらへばまたこのごろやしのばれむ うしとみしよぞいまはこひしき

夜もすがらもの思ふころは明けやらで ねやのひまさへつれなかりけり

85首 俊恵法師夜もすがらもの思ふころは明けやらで ねやのひまさへつれなかりけり
よもすがらものおもふころはあけやらで ねやのひまさへつれなかりけり

嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな

86首 西行法師嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな
なげけとてつきやはものをおもはする かこちがほなるわがなみだかな

村雨の露もまだ干ぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮

87首 寂蓮法師村雨の露もまだ干ぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮
むらさめのつゆもまだひぬまきのはに きりたちのぼるあきのゆふぐれ

難波江の葦のかりねのひとよゆゑ 身をつくしてや恋ひわたるべき

88首 皇嘉門院別当難波江の葦のかりねのひとよゆゑ 身をつくしてや恋ひわたるべき
なにはえのあしのかりねのひとよゆゑ みをつくしてやこひわたるべき

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする

89首 式子内親王玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする
たまのをよたえなばたえねながらへば しのぶることのよわりもぞする

見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず

90首 殷富門院大輔見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず
みせばやなをじまのあまのそでだにも ぬれにぞぬれしいろはかはらず

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む

91首 後京極摂政前太政大臣きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む
きりぎりすなくやしもよのさむしろに ころもかたしきひとりかもねむ

わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らねかわく間もなし

92首 二条院讃岐わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らねかわく間もなし
わがそではしほひにみえぬおきのいしの ひとこそしらねかわくまもなし

世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも

93首 鎌倉右大臣世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも
よのなかはつねにもがもななぎさこぐ あまのをぶねのつなでかなしも

み吉野の山の秋風小夜更けて ふるさと寒く衣うつなり

94首 参議雅経み吉野の山の秋風小夜更けて ふるさと寒く衣うつなり
みよしののやまのあきかぜさよふけて ふるさとさむくころもうつなり

おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣にすみ染の袖

95首 前大僧正慈円おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣にすみ染の袖
おほけなくうきよのたみにおほふかな わがたつそまにすみぞめのそで

花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり

96首 入道前太政大臣花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり
はなさそふあらしのにはのゆきならで ふりゆくものはわがみなりけり

来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ

97首 権中納言定家来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ
こぬひとをまつほのうらのゆふなぎに やくやもしほのみもこがれつつ

風そよぐ楢の小川の夕暮は みそぎぞ夏のしるしなりける

98首 従二位家隆風そよぐ楢の小川の夕暮は みそぎぞ夏のしるしなりける
かぜそよぐならのをがはのゆふぐれは みそぎぞなつのしるしなりける

人もをし人もうらめしあじきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は

99首 後鳥羽院人もをし人もうらめしあじきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は
ひともをしひともうらめしあぢきなく よをおもふゆゑにものおもふみは

百敷や古き軒端のしのぶにも なほあまりある昔なりけり

100首 順徳院百敷や古き軒端のしのぶにも なほあまりある昔なりけり
ももしきやふるきのきばのしのぶにも なほあまりあるむかしなりけり